Only One



今日はいつもより奮発して、すきやき。


『旨そ~!!』

『こら、旨そうじゃなくて、美味しそう、だろ?』

『うわー…。すき焼きなんていつぶりだろー?ね?兄貴っ!』

『はぁ…聞いてないし…。』

「クス、」


すき焼きを目の前にして興奮が収まらないのか、智愛ちゃんは郁人さんの言葉も耳に入っていない。

いつもの和やかな雰囲気に、私は落ち着く。

上手く…いったんだもんね。

大丈夫。

あの人にここを知られることなんてない。


いつの間にか、ここにいることが、当たり前になっていて。

郁人さんがいて、智愛ちゃんがいるこの家が、すごく幸せで。

その幸せが壊れる事が、すごく怖くて…


二人のやりとりに笑顔を浮かべながら、私は心の中で、大丈夫だと言い続けた。





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