Only One
「そ…っの、私、……男の人が苦手で…っ、だから……っ貴方があそこに立ってて、すごくっ…ビックリして……怖くて、逃げてしまいました…っ!!ご、ごめんなさいっ…!」
『ぇ、あ、そんな……』
「紗英さんからっ…先週のこと、貴方が気にしてるって聞いて……っ…貴方は悪くないのに、傷付けてしまっ…て…っ……ホントに、ごめんなさい…っ!」
居たたまれなくなって、頭を下げた。
戸惑うお兄さんの声が聞こえるけど、私は自分のことで精一杯。
「……ぁのっ、ケーキ…いつも美味しく食べてます…っ……頑張って…ください……し、失礼します…っ!!」
『えっ!?ぁ、ちょっ……また逃げられた…。』
お兄さんの言葉も無視して、厨房を出る。
「っ……」
『ぁ、どうだったー?芹那ちゃん――って、芹那ちゃん!?』
紗英さんの声にも気付かずにケーキ屋さんを出た私は、自転車を飛ばして家に帰った。
お礼を言ったときに見た――
「っ……やだっ…」
お兄さんの笑顔が、
優しくて
温かくて
心臓が、射ぬかれるような気がした……。