Only One



――「あれはやりすぎじゃないのか?智愛。」


芹那のもとへ急ぐ車内の中で、郁人は呆れた顔で隣にいる智愛に言った。


「兄貴に言われたくないわよ。あんな挑発に、まんまと載せられちゃって。兄貴らしくもない。」


早口ながらに、智愛も言い返した。

芹那の居場所が分かっても、芹那の無事は保障されていない。

そのことが、今の智愛を焦らせていた。


「…仕方ないだろ。芹那ちゃんは――」

「あーっ、それ以上は言わなくていい。」


すんでのところで、智愛は郁人の言葉をさえぎった。


「そうゆうことは、直接、本人に言うものよ。お・に・い・ちゃん?」

「―――チッ」


どこか馬鹿にした言い方に、思わず郁人から舌打ちが漏れる。

恋愛に関しては、妹の智愛の方が先輩だ。

何しろ、高校3年生で駆け落ちまでしそうになったのだから。


「芹那、無事だといいんだけど――。」

「…ぁあ。」


ふと、智愛が漏らした言葉に、ただ郁人は同意することしか出来なかった。

――けれど、芹那への想いは一層、増していた。



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