Only One
『でも、もう安心ね。』
「え?」
『だって、芹那にとっての王子様、見つかったようだし。』
「え…?」
突然、意味が分からないことを言うお母様に、俺は半端なく戸惑う。
王子様って…?
『芹那の小さいころの夢、知りたい?』
「…ぇえ、まぁ…。」
知りたくない、訳でもない。
…実を言うと、芹那ちゃんの事なら、何でも知りたい。
そう思ってしまうのは、芹那ちゃんをもう、想っているからだろうか。
『――王子様と結婚すること、だそうよ。』
「っ――!!」
『芹那は幸せ者だわ。こんなにも、心配してくれる人がいるんだから。』
ニコニコと話すお母様の声はもう聞こえない。
芹那ちゃんの思いがけない小さなころの夢に、俺の心は射ぬかれていた。
『藤咲さん。』
「はっ、はい。」
芹那ちゃんに似た、やわらかな声に呼ばれ、我に返る。
『これからも、芹那の事をよろしくね。』
「は…はい!」
『あと…目が覚めたら、たまには実家に顔出しなさいって、伝えておいて。』
「はい…必ず。」
『じゃぁ、失礼します。』
そうして、芹那ちゃんのお母様は穏やかな笑顔で病室を出ていかれた。