Only One



『だめだよ、さっき起きたばかりなんだし、寝てないと――』

「…ぃで…っ」

『え?』

「行かないで――っ!」


理性というストッパーなら、とっくの昔に外してた。


どうしても、郁人さんを失いたくなくて。

いつも隣にいて欲しくて。

笑ってて欲しくて。


何もない私が出来ることは、郁人さんの手を、震える手で握ることしか出来なかった――。


「お願いだから、行かないで…っ」


涙で視界がぼやけてて、郁人さんの表情なんか見えなかった。

それでも、私の気持ちはもうすぐそこまで溢れ出てて。

それを抑えるための蓋さえも、最早持ち合わせてなかった。


「いなくなっちゃ、やだっ…!」

『――っ』


郁人さんは何一つ守れなかったって言ったけど、そんなことない。

郁人さんは私に、色んな事を与えてくれた。


笑うことも、

怒ることも、

呆れることも、

嬉しく思うことも、

喜ぶことも、


あの人に奪われた事全部、取り返してくれた。

郁人さんに救われたのは、事実なの。


だから――



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