規則の守護者
目の前にいた男が、今は草むらに倒れている。


里中はあわてて、まるで汚い物をうっかり掴んでしまった時のように、銃を放り落とした。


撃つつもりじゃなかった。

そんなつもりじゃなかったんだ。


空っぽになった手を見れば、わずかに赤い液体が付いている。


……嘘だ。


思わず里中は、服の裾で手をぬぐう。

服に赤い色がこびり付いた。


とれない。

血が、とれない。


嘘だ、とそう思うのに、赤い色は一向に消えない。


動揺して、里中は叫ぶ。


撃つつもりじゃなかった。
そんなつもりじゃなかったんだ。


叫びは声にならない。

里中の言葉を聞く者は、だれもいない。


……銃なんて、持たなければよかった。

里中は心底、そう思った。



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