子猫が初恋提供します。
「にゃあー?」
「!……あ、えっと、なんか聞き間違えたみたいっ!」
「…………」
夜の呼び掛けにハッとして、そうに違いないと一瞬固まりかけた脳みそに言い聞かせるみたいに、へらりと笑って夜を見返す。
「なるほどー、でも残念。聞き間違えじゃないんだよ?に・あ・ちゃん」
「ふ、ひゃあっ!!?」
色っぽい顔をした夜にフー…と、耳に息をかけられて思わず叫んでベッドの上から飛び下りた。
床にぺたんと座り込み耳を押さえて、あたしは真っ赤になって夜を見上げた。
散々じゃれあったベッドの黒いシーツはたゆたっている。それを見ただけでも、今までの事を急に意識してしまう。
そこに長い足を組んで座る夜。
余裕の顔して、あたしを見下ろしていた。
「にあの全部が欲しいんだもん。ねー、約束、やぶったらダメ…?」
「だっ、ダメっ!!」
夜の色気にあてられて、固まっていた脳みそをなんとか可動させ、あたしはぶんぶんと顔を横に振る。
「返事早ー。………お願い」
「!?」
こてんと首を傾げてあたしを見つめる夜。麗しの美貌でその仕草はずるくない!?
「かっ、かわいこぶってもダメだもんっ!!」
騙されるもんかと今までの経験をフル活動で思い出し、ビシ!と指差し釘をさす。
絆されそうになるのを必死に耐えた。
気を許そうもんなら美麗な唇をニィとつり上げ、嬉々として迫ってくるに違いないだから。
「チッ」
「ほら、やっぱりぃぃ~~っ!!!」
あたしは真っ赤になって、舌打ちなんかしやがったずるい誘惑者を指差し批難の声をあげた。そしたら、
「……っ」
夜が急に顔をそらしてそっぽを向いた。
「夜??」
「……っく、ははっ!!」
突然、肩を揺らして楽しそうに笑いだして、さっきと打って変わった雰囲気にポカンとそれを見つめた。
「にゃあ、顔ちょー赤いっ!」
「~~~!誰のせいで……っ」
どうやら自分が笑われてるらしいとハッとして、文句のひとつでも言ってやろうと思ってた……のに…。
「よく知ってるな、俺のコト」
なんて言った夜が、なんだか、あまりに嬉しそうで、あたしはそれ以上怒ることが出来なかった。
そんな夜をやっぱりずるいと思う。
だけど、そんな夜をやっぱり……大好きだと思った。
「……覚悟出来たら、夜に…ぜんぶあげる……」
「!」
珍しく驚きに目を見開いた夜に、赤い顔で笑った。
あたしだって、もっと知ってほしいって思ってる。
その相手は、夜だけだから。
「楽しみに待ってる」
そう言って、嬉しそうにあたしの頬に優しいキスをくれる夜。
きっと、もうすぐそこだから、もう少し、待っててね…?
その時は、
ぜんぶ知りたい夜のこと。
ぜんぶ知ってほしいあたしのこと。
(そしたら、もっと、夜に近づけるのかな…?だったら、いいな。)
色んなことに思いを馳せて、赤い顔をしたまま思わず夜に笑いかけていた。
「~~~っ」
「えっ!?夜!?」
夜は胸を押さえつけながら、そのままベッドに仰向けに倒れた。
「俺の理性が持つうちに覚悟して…」
「えっ!!?」
なぜだか息も絶え絶えな夜に、あたしは驚きに声をあげたのだった。