子猫が初恋提供します。
思わず俯いてこぼれそうな涙をぐっとこらえた。
「チビに…」
「にゃあ~ちゃーん」
「!」
俯いていた顔がその声に反応してパッと上がる。
教室のドアの前でヒラヒラと手を振る夜の姿。
「夜…!」
まるで金縛りが解けたみたいにあたしの身体は軽くなって、駆け足で夜のところに行くとその制服の裾をぎゅっと掴んだ。
「ちょっと遅くなったー。嵐のヤツが日直だから黒板消せってうるせーんだもん~」
夜はあたしの夜の制服を掴む手を大きな手で優しく包むと、そう言いながらにっこりと笑った。
あったかい夜の手の温もりがこわばったあたしを溶かして行くみたい。
あたしは夜の笑顔につられるように、自然と自分も満面の笑顔になっていた。
夜があたしを見て笑ってくれると嬉しくなる。安心して、心が、…あったかくなる。
「……」
後ろではショウグンが、そんなあたし達をじっと睨むように見ていた。
「あんた先輩なんだろっ!?とっとと自分の教室戻れよ!」
ショウグンはいつも通り教室のあたしの席に座る夜を睨み付けながら、イライラした様子でドアを指差した。
「何だ、いたのかぁ?いじめっ子」
「な…っ!?」
夜はチラリと視線を寄越すと、余裕の態度で睨むショウグンをもろともせずに、ニィっと笑った。
「だっ、誰がいじめっ子だ!!!」
「おまえー。俺のにゃあいじめてんなよ?にゃあいじめていーのは俺だけなの」
「!!?」
なんて、意味深な流し目でショウグンを見つめる夜。
ショウグンの顔はまた真っ赤になった。
夜はあたしを守ってくれてるかの様に、手を優しく握りしめたまま
「おまえがどっか行けー。俺、おまえキライ。そんでにゃあが好き。…ちょー邪魔」
「~~~っ!!ほんとあんた何なんだよっ!!?」
終始こんな感じなものだから、ショウグンが頭を抱えてしまうほどだ。
「俺、おまえキラーイ。ヒドイコト言われて傷ついたから、にゃあちゅうしてダーリンを癒して?」
「へっ!?」
「~~~!!て、てめぇ~~っ!!?つーか酷い事言ってんのはどっちだ!!?」
すごい、あの暴れん坊ショウグンが翻弄されている。
幼い頃から一度も見た事ない光景に、あたしは驚きを隠せないでいた。