子猫が初恋提供します。
見覚えのある地味な茶色の扉の前に立った夜は、あたしを片手で子供のように抱き直すと、ごそごそと制服のポケットを漁り銀色の古い鍵を取り出した。
それを迷うことなくドアノブに差し込むと、扉はガチャリと音をたててあっさり開かれた。
扉の向こうにはあの見事な桜と白いベンチ……。
夜はあたしを抱いたまま中に入ってまた扉を閉めた。
そしてあたしはそっとベンチに下ろされる。
ポカンと夜を見上げるあたしに、夜はにこっと笑って言った。
「いいだろ?ここ…
俺の秘密の場所。」
「秘密の…?」
何だか得意気な子供のような夜はうんと頷くと、
「…女に追っかけ回されんの大キライなんだよ、俺。
どーにか一人になれる場所探してうろうろしてたら…ここの理事長に会って、桜の世話したら使っていーって鍵もらった。」
そう言って小さな鍵をあたしの前で振ってみせる。