子猫が初恋提供します。




見覚えのある地味な茶色の扉の前に立った夜は、あたしを片手で子供のように抱き直すと、ごそごそと制服のポケットを漁り銀色の古い鍵を取り出した。



それを迷うことなくドアノブに差し込むと、扉はガチャリと音をたててあっさり開かれた。



扉の向こうにはあの見事な桜と白いベンチ……。



夜はあたしを抱いたまま中に入ってまた扉を閉めた。



そしてあたしはそっとベンチに下ろされる。



ポカンと夜を見上げるあたしに、夜はにこっと笑って言った。



「いいだろ?ここ…

俺の秘密の場所。」



「秘密の…?」



何だか得意気な子供のような夜はうんと頷くと、



「…女に追っかけ回されんの大キライなんだよ、俺。

どーにか一人になれる場所探してうろうろしてたら…ここの理事長に会って、桜の世話したら使っていーって鍵もらった。」



そう言って小さな鍵をあたしの前で振ってみせる。







< 43 / 256 >

この作品をシェア

pagetop