親愛なる「丸」
――そんなことを考えている僕をよそに賑やかな後部席。
雄叫びが落ち着かぬ間に、難波に着いた。
適当な所に駐輪して、メットを取った。
瞬間見えた空が暗っぽかった。
まあ……大丈夫だろう。
今日の目的地は「base よしもと」、僕らの通称「ベース」だ。
ベースには、あのお笑いの吉本に所属する、若手も若手な芸人さん達が出演する。
憧れの芸人さんたちに会える……と、内なるワクワクを秘めた僕。
それとは裏腹に、君は
「わー!ここが難波!すごいですね!初めて来ました!」
とはしゃぎまくっていた。
もはや笑うしかない。
……そう、君といると笑ってしまうんだ。
疑心とか邪推とか無しに、ただ純粋に、笑ってしまうんだ。
チケットや地図管理係は当然僕。
一応レディーをエスコートしたいからね。
なんて君には言ってみたが、本当のところ、君に任せるのは不安だったのだ。
だって……「丸」だから(笑)
という訳ではなく、君はちょっと抜けているところがあったからだ。
こっちだよ~と君を誘導する僕は、年齢さえ違えば親子に見えてもおかしくないはずだった。
本当に、ちょっと目を離すとどこに行ってしまうか分からない。
そんな君だったから、放っておけなくなったんだろう。
――とりあえず、会場の下見だけはした。
お互い気分は最高潮に達しかけていたんじゃないだろうか。
「はぁ~お腹空きました~」
……君の空腹具合までは管理できてなかった。まさかこのタイミングで来るとは。
開演まであと1時間。
15分前には会場するから、正味あと45分。
「やっぱせっかく難波来たんだし、タコ焼きでも食べますか~!」
君の仰せの通りに、という感じだった。
その辺に並んでいるお店から適当にチョイスしたタコ焼き屋さん。
意外に美味しかった。
これが難波クオリティーか。
さあ、いよいよベースへ乗り込む。
僕は少し緊張してきた。
だって、あの芸人さんたちに会えるんだろ?!
君はというと、丸い顔をますます真ん丸にして……つまり、満面の笑みでいた。
「楽しみですね~先輩!」
[ パチパチパチパチ ]
始まった。