親愛なる「丸」

――そんなことを考えている僕をよそに賑やかな後部席。


雄叫びが落ち着かぬ間に、難波に着いた。


適当な所に駐輪して、メットを取った。
瞬間見えた空が暗っぽかった。


まあ……大丈夫だろう。


今日の目的地は「base よしもと」、僕らの通称「ベース」だ。


ベースには、あのお笑いの吉本に所属する、若手も若手な芸人さん達が出演する。


憧れの芸人さんたちに会える……と、内なるワクワクを秘めた僕。

それとは裏腹に、君は

「わー!ここが難波!すごいですね!初めて来ました!」

とはしゃぎまくっていた。
もはや笑うしかない。


……そう、君といると笑ってしまうんだ。
疑心とか邪推とか無しに、ただ純粋に、笑ってしまうんだ。



チケットや地図管理係は当然僕。


一応レディーをエスコートしたいからね。


なんて君には言ってみたが、本当のところ、君に任せるのは不安だったのだ。


だって……「丸」だから(笑)
という訳ではなく、君はちょっと抜けているところがあったからだ。



こっちだよ~と君を誘導する僕は、年齢さえ違えば親子に見えてもおかしくないはずだった。


本当に、ちょっと目を離すとどこに行ってしまうか分からない。


そんな君だったから、放っておけなくなったんだろう。



――とりあえず、会場の下見だけはした。


お互い気分は最高潮に達しかけていたんじゃないだろうか。



「はぁ~お腹空きました~」



……君の空腹具合までは管理できてなかった。まさかこのタイミングで来るとは。


開演まであと1時間。


15分前には会場するから、正味あと45分。



「やっぱせっかく難波来たんだし、タコ焼きでも食べますか~!」



君の仰せの通りに、という感じだった。


その辺に並んでいるお店から適当にチョイスしたタコ焼き屋さん。


意外に美味しかった。


これが難波クオリティーか。




さあ、いよいよベースへ乗り込む。


僕は少し緊張してきた。


だって、あの芸人さんたちに会えるんだろ?!


君はというと、丸い顔をますます真ん丸にして……つまり、満面の笑みでいた。


「楽しみですね~先輩!」



[ パチパチパチパチ ]


始まった。


< 7 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop