神の森
桜ものがたり 第三章 (追章) 神の森
宿命
神の森は、ざわめいていた。
社(やしろ)を守る神の守(もり)が交代の時を迎えようとしていた。
榊原八千代(さかきばらやちよ)は、長い間行方不になっている
長男の榊原春樹(さかきばらはるき)を探していた。
思いの方角へ捜索に人を遣わしたが不思議なことに行方が判らなかった。
春樹の結界の力か、はたまた、未知の力が及んでいるようにも感じられた。
思い起こせば、春樹の力は、生まれながらにして強く、神の守の風格を
備えていた。
弟の冬樹とは比べものにならなかった。
それ故に八千代は、春樹に期待していた。
突然、何の力も持たない山里の小夜と結婚したいと言い出して
猛反対すると姿を消した。
その足あとを途中までは辿ることができた。
にもかかわらず、突然、春樹の気配が掻き消えた。
八千代は、恐れていた春樹の死を自ら確認する決心をして、
春樹との決別を果たす旅に出た。