神の森
「母上さま、申し訳ございません。ありがとうございます」
祐里は、薫子から膳を受け取った。
「桜河さま、祐里を今まで大切に育ててくださったご恩は忘れません。
しかし、祐里は、ただの娘ではないのです。
神の御子であり、神の守なのです。
祐里は、今までこの地に小さなしあわせをもたらせていたでしょう。
これからは、広い世界にしあわせをもたらせるのです。
祐里を育ててきたのであれば、この娘が万人と違うことは感じて
おりますでしょう」
八千代は、薫子の瞳をしっかりと見据えてこころに訴えた。
「榊原さま、万人と違うても、わたくしの娘でございます。
とにかく、祐里さん、お爺さまに夕食を差し上げてくださいませ。
わたくしたちは、手放す気はございませんわ」
薫子は、八千代の言葉を受けて正論だと思いながらも、
祐里を手放す気には、到底なれなかった。
「母上さま、私もお屋敷を離れるなど考えられません」
祐里は、幼い娘のように無性に甘えたい気持ちになって
薫子に抱きついた。
薫子は、優しく、そして力強く祐里を抱きしめた。
薫子は、暗い面持ちで食堂に戻り、八千代との経緯を家族に説明した。