神の森
「光祐くんの意向は相分かった。ただ、神の森がどうするかじゃ。
そして、祐里がどう対応するかじゃ。
春樹に死をもたらせた強力な力なのだから、
神の森のなさることはわしには推測がつかぬのじゃ」
八千代は、神の森に祐里を連れ帰ったら、もう二度と桜河のお屋敷に
戻れないであろうと感じていた。
それを光祐には告げることができなかった。
「わたしは祐里を信じています。
あの崖崩れの時も祐里は生き残り、そして、わたしの元に来ました。
祐里は、神の守としてではなく、
わたしと巡り合うために生まれて来たのです。
たとえ、神さまでもわたしと祐里を引き裂くことはできません。
わたしは遠く離れていても、祐里を信じてこころで守ります」
光祐は、八千代の瞳を見つめて、きっぱりと断言した。
「祐里は、ほんにしあわせものじゃなぁ」
八千代は、しみじみと若い光祐の懐の大きさに感じ入っていた。
「榊原さま、夜も更けてまいりました。そろそろお休みください。
桜の樹には安眠を妨げないようにわたしがよく説明しておきますので、
まずは、お疲れをお癒しください。それではおやすみなさい」
光祐は、八千代に会釈して座敷を出た。