神の森
 
 廊下から庭に下りて、深緑の葉を湛えた桜の樹へ向かうと、

桜の樹は、月の光に青く光り輝いて光祐を迎えた。


(桜、心配しなくても大丈夫だよ。

一度、祐里を神の森に帰しはするけれど、

必ず、祐里は戻ってくると、ぼくは信じている。


 ぼくと祐里は、桜の下で添い遂げる宿命で巡り合ったのだもの。

 ぼくは、こころで念じて祐里を守るよ。


 どうか祐里と優祐に力を貸しておくれ)

桜の樹は、葉を優しく揺らして頷いた。



 光祐は、目を閉じて、静かに桜の葉音を聞いていた。



 遠い日の記憶が蘇っていた。

 突如、訳もなく恐ろしくなって「ゆうりをたすけて」

と、桜の樹に縋りついたのは、夢か幻だったのか……



 次の場面には、幼い祐里と祖母濤子(なみこ)の笑顔があった。


「光祐さん、ご覧なさい。桜の樹の下の祐里は、とても美しいでしょう。

 お屋敷の御守護の桜は、祐里そのもののような気がいたします。

 光祐さんが祐里を愛するのなら、

 これから何があろうとその愛を貫きなさいませ。

 わたくしは、いつも光祐さんを見守ってございますから」


「ぼくは、ゆうりがだいすきだよ」

 優しい濤子の真剣な言葉に、光祐は、気持ちをそのまま口にした。


「ゆうりは、こうすけさまがだいすきです」

 祐里は、無邪気に笑って、光祐の元へと走り寄って抱き着いた。

 その光祐と祐里を濤子は、一緒に抱き締めた……。


 しばらくの間、光祐は、桜の樹と共に祐里と過ごしてきた日々を

想い返していた。

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