神の森
優祐は、剣術の稽古の帰りに白髪の老人から声をかけられた。
「坊ちゃん、あちらに見えている山に行くには、どう行けばよろしいかな」
老人は、しばらくの間、桜山と対峙するように向き合っていた。
「桜山ですね。桜川をずっと辿って行けばすぐに分かりますよ。
でも、今からでしたら随分時間がかかりますので、到着する頃には
暗くなってしまいます」
優祐は、桜川の上流へ続く道を指し示しながら老人に道を教えた。
「坊ちゃんの言う通りだね。
今夜は、宿に泊まって明日の朝から出かけるとしよう」
老人は、遥かな道程を見つめ、優祐に視線を移した。
途端に懐かしい想いが胸に溢れた。
遠い昔に帰ったような気分になっていた。
「よろしければ、ぼくがご案内しましょうか。
明日は、日曜日で学校が休みですので」
優祐は、旅の老人をひとりで桜山に向かわせるのが心配になっていた。
「さようか。それならばお願いするかな。わしは、榊原八千代と申す。
そこの桜旅館に宿をとるからね」
八千代は、桜旅館の看板を指差した。
そして、明日も優祐と会えると思うと久しぶりに
こころが嬉々とするのを覚えた。