神の森
「祐里は、生まれながらにして神の御子なのじゃ。
わしが教えなくとも神の森に受け入れられておる。
桜河家には悪いが祐里こそが神の守なのじゃ」
「お爺さま、神の守は、冬樹叔父さまでございます。
私ではございません」
満足しきった八千代に、祐里は、真剣なまなざしで訴えた。
「それは、神の森がお決めなさることじゃ」
八千代は、祐里の言葉を遮るように言い放った。
「いいえ、お爺さま。
冬樹叔父さまをしっかりとご覧になられてくださいませ。
お爺さまのおこころ次第で冬樹叔父さまは、神の守に相応しゅう
なられると思います」
祐里は、必死になって冬樹を庇い、八千代に意見をした。
「そなた、わしに意見をするのか」
八千代は、先代から神の守を継承して以来、何人からも久しく意見を
されたことがなかった。
八千代は、驚きながらも、はっきりとした意見を持った祐里を
ますます後継者として相応しく感じた。
「お爺さまの優しさに甘えて言葉が過ぎました。お許しくださいませ」
祐里は、八千代を敬って頭を下げた。
「まぁ、よい。
わしは、今夜から神事の業に西の祠に篭もるので、何かあれば
嫁の雪乃に言いなさい。
そなたは、明日から神事の業が終わるまで、優祐と一緒に少しずつ
神の森を見て回っておくれ。
神の森では、それぞれの長(おさ)たちが協力してくれるじゃろう」
八千代は、上機嫌で、祐里と優祐を連れて神の森から社に戻った