神の森
「副社長、お疲れさまでございます。紅茶をお入れしました」
副社長室の扉を秘書の桑津美和子(くわづみわこ)が叩いた。
「桑津くん、まだ、残っていたの」
光祐は、先程最後まで残ってくれていた執事の遠野を帰して、
自分一人だと思っていたので、驚きの表情を美和子に向ける。
「毎日、副社長が大変そうですので、退社したのですが、
何かお手伝いできましたらと戻ってきました」
美和子は、辺り一面に牡丹の花が咲いたような愛くるしい笑顔を
光祐に向けた。
「そうだったの。桑津くん、ありがとう。
今から帰るところだったのだけれど、紅茶をいただいてからにしよう」
美和子は、お盆から紅茶茶碗を机に置きながら、故意に手を滑らせる。
床に落ちた紅茶茶碗が音を立てて割れた。
美和子の計略通りに牡丹色のスカートからは、紅茶の雫が滴り落ちた。