神の森
「申し訳ありません。私って、そそっかしくて。
痛っ」
美和子は、割れた紅茶茶碗をお盆に集めながら、破片で指を切った。
「大丈夫」
光祐は、慌ててポケットからハンカチを取り出すと、
美和子の血が滲んだ指を止血のために両手で押さえた。
美和子は、愛の炎を点火して、光祐の手に左手を添える。
「副社長、ありがとうございます。なんてお優しいお方」
美和子は、熱い視線で光祐を捉えた。
光祐は、美和子の大きな瞳に捉えられて、熱い視線を浴びながら、
しばらくの間、そのまま見つめ合う形で、指を押さえていた。
「もう、大丈夫のようだね」
光祐は、止血した美和子の指を確認した。
「床を片付けます」
美和子は、洗面室に雑巾を取りに行き、床に零れた紅茶を拭いた。
拭きながら白いブラウスから胸の谷間が覗く角度を取り、
若さが漲る肢体をちらつかせる。
光祐は、目のやり場に困り、ロッカーから上着を取り出した。
「桑津くん、そのスカートでは外を歩けないだろうから車で送って行こう」
光祐は、遅い時間に手伝いのために戻ってきてくれた美和子の気遣いに
感謝していた。
「お疲れのところ、かえって副社長に迷惑をおかけしてすみません」
美和子は、神妙な表情を作って、光祐にぺこりと頭を下げ、
その瞬間、思惑通りの経過にほくそ笑む。