神の森

「小夜っ」

 冬樹は、驚愕の表情で祐里を見つめ、

そして、渾身の力を込めて祐里を抱きしめた。


 祐里は、遠退く意識のなかで過去に遡るような感覚に包まれて、

冬樹と小夜の幻影を見ていた。


「小夜。帰って来てくれたんだね。

 あれからずっと、死んだものとばかり思っていたのだよ」


 冬樹の歓喜のこころを映して雨が止み、

煌煌とした明るい月が雲を掻き消して輝いた。


「ぼくは、小夜が好きだ。兄上以上に小夜を愛している」

 冬樹の強い念が、時間を逆行させていた。


 祐里は、冬樹とともに時間の逆流に巻き込まれていく。



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