神の森
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春樹と小夜は、神の森と緑が原の境である緑川で、
毎日夕刻に待ち合わせをしていた。
冬樹は、父が呼んでいると春樹に嘘をついて、
先回りして小夜を待ち伏せた。
「ぼくは、小夜が好きだ」
冬樹は、率直に愛を告白した。
「私は、冬樹さまを弟のように感じております。
私は、春樹さまをお慕いしています」
小夜は、春樹ではなく、冬樹が待っていたことに驚いていた。
「嫌だ。小夜は、ぼくのものだ。兄上には渡さない」
冬樹は、無理やり小夜を抱き締め、くちづけを迫る。
「やめてください。もう、春樹さまに顔向けできません」
小夜は、咽(むせ)び泣き、冬樹が涙に驚いて力を弱めた隙に、
険しい岸壁から川に身を投げた。
その時、一足遅れで春樹が駆けつけて、小夜を助けようと
激流の川に飛びこんだのだった。
そして、二人は行方不明になった。