神の森
次の日は、朝から晴れ渡り、白い薄雲が桜山の裾野にたなびいていた。
「爺、おはようございます。今日は一日、よろしくお願いします」
優祐は、朝食を終えると弁当と水筒の包みを持って、
森尾の車に乗り込んだ。
「優祐、遅うございます」
祐雫が既に車に乗りこんで微笑んでいた。
「優坊ちゃん、おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。
さて、出発いたします。祐里さま、行って参ります」
「森尾さん、よろしくお願いします。
優祐さん、祐雫さん、気をつけていってらっしゃいませ」
祐里は、玄関の車寄せで手を振って見送った。
見送りながら異様な気分に襲われていた。
それが何かは分からなかった。
今までに感じたことのない懐かしい気分と得体の知れない恐ろしさが
交錯していた。
「桜さん、何かが起こりそうな気がいたします。
どうぞ桜河の家族をお守りくださいませ」
祐里は、桜の樹に手を合わせて祈った。