神の森
「父上さまは、どうして、そのように平常心なのでございますか。
母上さまと優祐が行方知れずになられて一月が過ぎましたのに」
祐雫は、祐里からお屋敷に残って自分の替わりに家族の世話を
頼まれたのだが、母の存在の大きさに気付かされた。
祐里が家を留守にしたその日から、お屋敷は、薄っすらとした闇に
包まれていた。
深緑の葉を陽光に輝かせていた守護の桜でさえも潤いをなくしている。
祐雫は、桜が枯れてしまうのではないかと心配して、
毎日桜の樹に話しかけた。
「わたしは、祐里を信じているからね。
それにわたしには祐雫がいる。
必ず、祐里と優祐にまた会えると思っている」
光祐は、淋しくないと自己に問えば嘘になると思いつつ、
ここで自分が弱音を吐いては桜河の家族を不安にさせるだけと思っていた。
躊躇する祐里を神の森に旅立たせたのは自分だった。
それは後悔したくない決断だった。
思い返せば、大学生の時に祐里の縁談が持ち上がり、
榛文彌(はしばみふみや)と父の意向から必死になって、
祐里を守ったことがあった。
今回は、あの時とは比べものにならない
未知のの力を持つ神の森が相手だが、
光祐は、相手が誰であろうと
祐里を守り貫こうとこころに誓っていた。