神の森
「どこまで行きなさる」
突然、背後から声をかけられた。
「こんにちは。神の森へ行くところです」
光祐は、振り向いて声の主を仰ぎ見た。
牛車に乗った村人が怪訝な表情を返してきた。
「あの森が神の森だが、何人も入ることは出来ませんぞ。
獣道すらなく、一度入り込んだら出て来られぬ森だ。
物見遊山で行くところではないぞ」
神の森への畏敬(いけい)の念から、村人の表情が曇る。
「神の社に神の守が住んで居られる筈でございます」
祐雫は、驚いて口を挟んだ。
「わしは、生まれてからこの緑が原に住んでおるが
そんな話は聞いたことがない。
確かに森の入り口に小さな社(やしろ)があるにはあるが、
人が住めるような社ではない。
わしらは、神の森は仰ぎみるだけで近付かないようにしておる」
「それでは、この近くに榊原八千代さまがお住まいではありませんか」
光祐は、八千代の名を口にした。
「榊原は、この緑が原に住む者の姓だ。わしも榊原だが・・・・・・
八千代は聞いたことがない」
村人は、不思議な顔をして答えた。
「父上さま・・・・・・」
祐雫は、心細くなって光祐に寄り添った。