神の森
「祐雫」
光祐は、大きな声で祐雫の名を叫んだ。
光祐の声は、奥深い森に掻き消され、
どこからも祐雫の声は、返ってこなかった。
◇◇◇余所者は去るのじゃ◇◇◇
代わりに鋭い神の森の声が響き渡った。
「わたしは、祐里と優祐を迎えに来たのです。
一人で帰るわけにはいきません。
神の森、祐里はわたしの最愛の妻です。
わたしに祐里を帰してください」
光祐は、生茂った森の樹木を見上げて熱心に訴えた。
◇◇◇それは過去の話じゃ。
この森において祐里は、神の守じゃ◇◇◇
森全体が震えて、光祐に針葉樹の千の棘の痛みを容赦なく放った。
「いいえ、この森の中でも祐里は、わたしの妻です」
(祐里、すぐ近くまで来ているというのに
なかなか側に辿り着けないけれど、ぼくは必ず迎えに行くよ)
光祐は、千の棘の痛みに耐えながら、しっかりと顔を上げて、
神の森全体を見つめ返した。