神の森
祐雫は、湖の辺に投げ出されていた。
ゆっくりと起き上がった祐雫は、ワンピースの土を掃って、
白い霧に包まれた湖を見渡した。
「父上さま」
祐雫は、静かに瞳を閉じて、光祐の気配を窺った。
◇◇◇祐雫◇◇◇
神の森の呼び声とともに湖が虹色に輝き始めた。
祐雫は、湖へと惹き寄せられるように近付いて、水面を覗きこむ。
湖の水面には、蜘蛛の糸に絡まれた祐里の姿が映し出された。
「母上さま」
祐雫は、祐里の姿にこころを痛めて、躊躇なく手を差し伸べる。
「あっ」
突然に虹色の靄が祐雫を包み込んで、湖に取り込んでいった。
湖は、生贄として祐雫を封じ込めると、
若い美しさを吸収して、ますます美しい虹色に輝いた。
祐雫が吸い込まれた湖面には、薄紅色の桜の花弁が祐雫の足跡を
示すかのごとく、ひとひら浮かんで波紋を奏でていた。