神の森
「そなたは・・・・・・」
八千代は、気がついて祐里を見つめた。
「祐里と申します。
あなたは、いえ、お爺さまは、私を捜しに来られたのでございますね」
「祐里と申すのか。わしは、春樹の消息を確かめに来たのじゃ。
だが、死んだのじゃな。
死んでからも、あやつは、結界を張り巡らして、
そなたを隠しておったらしい。
それに何かの強い自然界の力が加わっておる。
わしは、この地に来てから体調が悪うなった」
八千代は、祐里の手を通して癒しの力を感じていた。
気分が少しずつ楽になってきていた。
「確かに私の父は、榊原春樹と申しますが、
私は、今では桜河の人間でございます」
祐里は、光祐と婚約してからの十七年間のしあわせに
想いを巡らせていた。
「おお、桜じゃ。
強い力は、この地の桜の樹から発せられているのじゃ。
それにこの屋敷からも。余程、おまえを守りたいとみえるな」
八千代には、祐里を守って幾重にも張られた強い結界が見て取れた。
「榊原さま、もうすぐ、お医者さまが参りますので、
今日はこちらでゆっくりされてください。
お話はそれからでもよろしいでしょう」
光祐は、八千代の身体を案じた。
「突然に現れてこの体たらくだ。申し訳ない。
そなたが祐里の連れ合いだね。
祐里を大切にしてくれているのじゃな」
八千代は、光祐に微笑みかけて静かに目を閉じ、
祐里の優しい手の温もりに包まれて安らかな眠りに落ちていった。