神の森
光祐が右手を差し出すと、桜の花弁はゆっくりと手のひらに納まった。
「桜、ぼくに力を貸しておくれ」
光祐は、しっかりと桜の花弁を握り締める。
ふと、視線の先に湖面に浮かぶ祐雫の白い帽子が垣間見えた。
「祐雫」
光祐は、躊躇無く湖に飛び込んで祐雫を探した。
潜っては水面に顔を出して、息継ぎを繰り返しているうちに、
光祐は、湖の風景が桜池のように思えてきた。
桜池の浅瀬でよく祐里と水遊びをしたことを
頭の中で懐かしく想い出していた。
息継ぎのために顔を上げる光祐の瞳には、満開の桜の木立が映った。
冷たい湖水がぽかぽかとした春の陽気に照らされて、
暖かくなっていくように感じられた。
光祐は、桜に励まされた気分になって、潜っては息継ぎを繰り返して、
辛抱強く祐雫を探して泳ぎ回った。
しばらくして、光祐は、虹色の水泡に包まれて眠っている祐雫を
見つけて抱きしめた。
光祐は、祐雫と共に大きな水泡に包まれて、
湖の真底へ渦巻く激流に流されていった。
水泡は、真底に打つかって破裂した。
水泡から投げ出された光祐は、祐雫を抱きしめたまま気を失っていた。