神の森
「光祐さん ・・・・・・。光祐さん、しっかりなさいませ」
遠い彼方から懐かしい声が波紋のごとく響いてきた。
それは濤子(なみこ)御婆さまに似た優しい声だった。
「おばあさま」
光祐は、目を開けた。
抱きしめていたはずの祐雫が桜色の着物を纏った美しい女性に変わり、
光祐は、その女性に抱かれていた。
辺り一面には桜の香りが漂い、光祐は、この摩訶不思議な状況下に
身を置きながら、女性に抱かれて安らいだ気分に浸っていた。
「お屋敷の行く末は、光祐さんに懸かっておいででございます。
祐里さんを救えるのは光祐さんだけでございましょう。
しっかりなさいませ」
美しい女性は、光祐を勇気づけるかのごとく静かに微笑んだ。
「あなたは・・・・・・」
「わたくしは、桜河麗櫻(りおう)と申します。
何時でも光祐さんを見守ってございます」
光祐は、遠い記憶を辿った。