神の森
「光祐さま」
祐里は、光祐の愛情に抱かれて意識を取り戻した。
「夢ではございませんのね」
祐里は、右手を伸ばして、頷く光祐の頬に伝う涙を掌(てのひら)に
掬(すく)った。
光祐の涙は、祐里の手の中の桜を潤わせる。
祐里は、その瑞々しい桜の花を光祐の胸ポケットに挿し入れた。
同時に光祐の千の棘の痛みは消滅していった。
「祐里、迎えに来たよ。祐雫も一緒だ」
「母上さま、お労(いたわ)しゅうございます」
祐雫は、祐里の左手を両手で握り締める。
「祐雫さん、ありがとうございます。私は、大丈夫でございます。
それよりも、社(やしろ)に残された優祐さんが心配にございます」
祐里は、ひと月ぶりに身体の芯から元気が漲(みなぎ)ってくるように
感じていた。
自己の力を封じなくて済む神の森ではあったが、
日が経つに連れて、光祐が側に居ないことの空虚さがこころに広がって、
見えない蜘蛛の巣に絡まれているような気になっていた。
光祐の胸に抱かれて安堵したことで、
祐里の腕から背中にかけての痛みは癒えていた。