神の森
社の前では、余所者の気配を感じ、冬樹が両手を広げて立ち塞がっていた。
「何故じゃ」
森中を渡った神の声が冬樹の声と重なった。
「祐里と優祐を連れて帰ります」
光祐は、祐里をしっかりと抱きかかえて冬樹と対峙した。
冬樹は、春樹以外の人間が小夜を抱きかかえている現実を
目の当たりにして動揺した。
「小夜は、幻だったのか。
そうだった、祐里は、小夜の娘だったな」
冬樹は、白昼夢から醒めたように頭の中が晴れ渡り、自問自答していた。
(わたしは、四半世紀もの間、一体何の為に生きてきたのだろう)
冬樹は、自身に問いかけた。
その自己への探求とともに森の御霊(みたま)が
冬樹の周りに集まってくる。
光祐と祐里は、静かに冬樹の変化を見守っていた。