神の森
鶴久院長の往診で、八千代は、疲労からくる一過性の貧血で、
安静にしていれば大事には至らないとのことだった。
「祐里は、しあわせなのじゃな」
八千代は、深い睡眠から覚めて診察を終えると、
側に座っている祐里に話しかけた。
「お爺さま、私は、とてもしあわせでございます。
父母を三歳で亡くしてから現在まで、
このお屋敷で大切に育てていただきました。
そして、何よりも光祐さまが私を力強くお守りくださいます」
「そのようだな」
祐里のしあわせな表情に反して、八千代は、こころを曇らせていた。
祐里が春樹の娘だと分かった以上、守人の交代の時期を迎えている
神の森に、是非とも連れて帰らなければならなかった。
祐里の癒しの力は、今の神の森に必要不可欠なものだと
瞬時に感じられた。
三歳の時に八千代が引き取り育てていれば、
祐里の力は、絶大なものになっていたに違いなかった。
春樹にはその力が分かっていたに違いない。
だからこそ、神の森に居所を突き止められた春樹は、祐里の俗世間での
しあわせを願って、自分の魂と引き換えに結界を張り巡らして祐里を守った
のだろう。