神の森
静謐
長い静寂の時間が流れた。
樹木の香りを含んだ爽やかな風が吹き渡り、その場の者たちを浄化して、
心身の痛みを消し去っていた。
そこへ、森の奥から雪乃に支えられた八千代が姿を現した。
「冬樹、森の神は、そなたを神の守に任ずると御宣託(ごせんたく)された。
まだまだだと思っておったが、何時の間にか成長しておったのじゃな」
八千代は、神の守の御印(みしるし)である翡翠の勾玉を冬樹に差し出す。
森全体が新しい神の守の誕生を祝福して、豊潤に光り輝き、
その霊力は、冬樹の胸元で翡翠の勾玉として納まった。
その瞬間、冬樹の左肩の邪悪な大蜘蛛は、朝日に融けて消滅する。
同時に社(やしろ)の紋(しるし)を蔽(おお)っていた蜘蛛の巣が
掻き消えていた。
八千代は、凛とした表情に変化した冬樹を頼もしく感じて腕を取った。
「父上、ありがとうございます」
父子の間に久しく訪れなかった愛情と信頼が戻ってきていた。
「雪乃、今まで苦労をかけたな」
冬樹は、愛情を込めて雪乃を抱きしめ、
雪乃は、父子の和解に涙を流して喜んだ。