神の森
帰りの支度が整い、別れの挨拶が終わると、
冬樹の指し示した方角に満開の桜の大樹が現れた。
「優祐くんが植えた桜の樹だ。
しっかりと神の森に根付いて瞬く間に大樹になった。
北の地では桜は不吉とされてきたが、
不思議なことに神の森に邪悪なものを寄せ付けないように
守護してくれている」
冬樹は、優祐を見て大きく頷いた。
「冬樹叔父さま、どうぞ桜の樹を大切になさってください。
来年の夏休みにまたこの森に来てもよろしいですか」
「いつでも、来たい時に来るがよい。
ここは、優祐くんのお爺さまの生地なのだからね」
優祐の問いに冬樹は、ゆったりとした笑顔で答えた。
「はい。ありがとうございます」
優祐は、冬樹に向って喜びの笑顔で頷き返した。
「光祐くん、祐里を宜しく頼みます。祐里、しあわせにな」
冬樹のこころから春樹と小夜への怒りや恋慕がすっかり消え去り、
父親のような大らかな気持ちで、祐里を抱きしめる。
「どうぞ、冬樹叔父さまも雪乃叔母さまとおしあわせに
お過ごしくださいませ」
祐里は、冬樹の広い胸の中でそのしあわせを祈った。