神の森
「桜さん、ただいま帰りました。
お蔭さまで無事に帰ってくることができました。
ありがとうございます」
祐里は、光祐に寄り添って、しばらくの間、桜の樹を見つめていた。
光祐の胸ポケットに差し込まれた桜の花は、銀色の雫になって、
桜の樹に返っていった。
光祐は、桜の樹に導かれるように祐里を抱き寄せて、
その柔らかな唇に口づけた。
この時、祐里のお腹には、二月目を迎えた嬰児(みどりご)が宿っていた。
後に桜河里桜と名付けられる御子(おこ)だった。
桜の樹は、深緑の葉を揺らして、祐里の帰りと
まだ誰にも知られていない新しい生命の誕生を喜んでいた。
〈桜物語 追章 神の森・完〉