簪彼女。
「そ、の、」
少しの沈黙の後。
高橋くんは、すぅっと息を吸ってそれを破った。
「赤松は、いつも簪を差してるよな。その、赤いやつ」
こつん、と小さな音。
同時に、頭には振動が伝わってくる。
どうやら、高橋くんが簪の玉を小突いたようだ。
「うん。大切な、簪なの」
「……大切な?」
「うん。小さい頃、お母さんにね、我が儘言って買って貰ったんだよ」
「へぇ」
少し意外そうに、高橋くんは相槌を打った。
「赤松でも、我が儘言うのか」
「ふふっ。そりゃあ、小さい頃だもん。我が儘言ってナンボ、ってね」
それに笑って見せれば、ふわりと高橋くんの表情が綻んだ。
楽しい。
とても。
「でもね、簪買って貰った時は、私髪の毛短くてね。当分簪なんてつけられなくて……」
「鑑賞用、って訳だ。綺麗な模様してるからな、まぁ、俺だったら見てて飽きない」
「正解!一年くらいは、瓶の中に入れて鑑賞用だった!」
「うっそ!マジかよ」
くくっ、と肩を揺らして高橋くんが笑う。
それにつられて、私もクスクス笑った。