簪彼女。
そんな、他愛ない時間はすぐに過ぎて。
高橋くんと密着したままだと言うのに、緊張なんかはいつの間にかほぐれてた。
……とはいえ、もちろんすれ違うほとんどが驚きやらなんやらの目線をぶつけてきたけれどもね。
「……さて、高橋くん」
「おう」
ちょっと高めのマンションを見上げた。
うちは四階にある。
あとは階段を登って扉を開けるだけ。
いくらなんでもそこまで高橋くんに着いてきて貰うのはあまりに悪すぎるから、ここでバイバイってことになる。
……でも。
…………でも、その前に重大な問題が一つあります。
そのことに、高橋くんは気付いてるのかな。
「ここが赤松ん家か?何回?」
「四階だよ」
「うっは、高ぇなあ……毎日毎日疲れねぇ?登ったり降りたり。なんなら俺がおぶってこうか」
「まままま、まさか、ここまでで良いって。送ってくれてありがとう、高橋くん」