簪彼女。
胸が痛くて、でもどうしようもなくて。
尻餅をついたままの私は、気付けばボタボタと涙を流していた。
「どうしよ……っ、どうしよう、おかあさん、っ、……っ」
大事な簪が、なくなっちゃったよ。
「高橋、くん、」
ごめんね。
助けは求めないから、名前だけは呼ばせてね。
――………なんて、胸の内には淡い淡い期待を抱いて。
なんて、ずるいんだろう。
しばらく、私はその場から立ち上がれなかった。
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