簪彼女。
あからさまに足を止めてしまった自分を恨む。
「ん?赤松、どうしたんだよホント。やっぱ早いんなら―――………あ?」
つられて立ち止まった高橋君は、小さく目を見開いた。
あ、ばれた、って。
すぐにわかる。
「おい、赤松。いつもの、赤くて丸い簪どこにいったんだよ」
「え、っと、」
「……おい?」
じり、と詰め寄られてたじろいだ。
繋がれた手に力が込められるのを感じて、肩を竦めてしまう。
なんだか、高橋君怒ってる……?
「まって、高橋君、あの……」
「待つって何を?まさかお前、簪忘れたとかそういうんじゃねぇよな?」
「違……うぅん、そうだよ、私忘れちゃっ…」
「嘘」
きっぱりと、それでいて強く断言されてしまったからには嘘をつき続ける事は出来なかった。