せーの、で忘れてね
成人すること
「お待たせーい」
クラクションをププっと鳴らして、家の前にシルバーの車が止まる。
まだ夜があけないうちの美容室の予約だったから、ちょうど住吉が迎えに来てくれる頃には
だんだん瞼が重くなってきていた。
「かわいーじゃん、牧山! いいよいいよ、似合ってるよ!」
‥って、だからそーゆーことを軽々しく言うなってば。
「じゃ、おかーさん後から行くから、住吉くん、よろしくねー!」
「はいっ 安全運転で行きますんで!」
「もー、大丈夫だって。 お母さんこそ気をつけて来てよね。 じゃ、あとで」
会場にはもう何人もの人がいて、誰が誰だかは分かんないけど、見渡す限りの振袖とスーツ。
「わ‥なんか‥‥」
迷子になりそう。
「どした?」
「あ、いや‥」
「すうーみよしーぃっ」