せーの、で忘れてね
「もうすぐ、目的地です」
飛行機の出発予定時刻まで、あと30分弱。
日曜だからか、道が混んでいて多少遅れ気味の到着だった。
「牧山、どうする? 降りる?」
先に降りた住吉が、太陽の眩しさに顔をしかめてあたしを見る。
「お‥っ‥降りるよっ」
ここまできたら、目を反らすんじゃなくて、最後まで見届けたい。
もう心は傷ついてボロボロだから、どうせなら粉砕しちゃうくらいにしてほしい。
もし本当にあたしの心が粉砕したら、次は強くてキレイな心を作りたい。
振袖でうまく歩けないあたしをあまり気にもせずに
住吉はゲートの隅々まで見て、どんどん伊久さん探してゆく。
「ちょ‥住‥」
呼び止めても、少し賑わいうるさい空港で、あたしの声は住吉の耳まで届いてはくれなかった。