せーの、で忘れてね
いつもはあたしがヒールなだけで気にしてくれたりしたのに。
今日はピンヒールのときより歩きにくいのに、住吉は気付きもしない。
どんだけ伊久さんが心配なの。
どんだけ惚れてんだ。
あたしは着崩れしてきた振袖のまま、だんだん歩くペースを落として、ついに立ち止まった。
その途端、あっという間に見えなくなる住吉。
「‥ばっかじゃないの‥‥」
ぽそっとつぶやいた声も、周りにかきけされて自分にすら聞こえない。
今まで、住吉の口からは好きな人とか彼女とかの話は聞いたことなかった。
住吉ってば草食にも喰われる草レベルで引っ込み思案だし
いつもボケてるから、好きな人とか気付かないのかもしれない。
それなのに分かるのが、あたしには痛いんだよ。
あんたが自覚してないのに、あんた以外のみんなは分かってる。
それが痛いんだよ。