せーの、で忘れてね
しばらく立ちすくんでいたあたしは
ロビーまでトボトボと歩く道のりの途中、ふと1階を見下ろすと住吉を見つけた。
「あ‥‥」
住吉は、伊久さんの腕を掴んでいた。
見つかったんだ。
良かったじゃん。
そうつぶやこうとして、口に出したら泣きそうになったからあたしは唇を噛んだ。
サングラスをしている伊久さんの表情は、角度的にも見えないけど
住吉のあんな真面目な顔、初めてみたよ。
いつもどっか本気じゃなくて、でもしっかりやることはできてて‥
そんな住吉でも、こんな顔するんだね。
あたしはそのまま住吉の車のもとへ向かった。
あーあ。
だから辞めとけばよかったんだ。
深追いとか詮索とか、したっていいことなんて1つもない。
ホント、何にもない。
あたしと住吉、今日は晴れ舞台なんだよ?
おめでとうって笑い合いたいよ。
なんであたしたちだけ笑い合えないのさ。