せーの、で忘れてね
恭介と出会ったのは大学の新歓コンパで、酔った勢いでなんとかなったわたしたちはその後もなんだかんだで関係が続き、いつの間にかわたしは29になり、恭介も26といういわゆる「結婚適齢期」まできてしまっていた。
10代の頃は30過ぎても結婚できない女はただの負け犬だと思ってきたが、今のわたしはまさしくそれ以外のなにものでもない。
いくら晩婚化が進んでいるって言ったって、なんだかんだ20代のうちには結婚なんてなんとかなってできるもんなんだと勝手に思い込んでいた。
「結婚‥‥したいんですけど」
ナイスなタイミングで隣の席のマネージャーがつぶやく。
「マネージャー、そのセリフが心に染みて痛いです」
わたしたちはカチャカチャとパソコンに打ち込みながら真顔で淡々と話す。
彼女は33でマネージャーになった、まあ今どきのデキる女だ。
しかし恋愛や結婚の面で言うと、未来のわたしの姿そのもの。
未来の自分を見ているようで本当に時々怖くなる。
「仁香はさあ。まだ、いるじゃん。彼氏という生き物が。わたしは仕事が恋人〜とかふざけてたら本当そうなっちゃったから」
「いや天体バカで困りますよ本当。しっかりしてるかな〜と思ったらドジやったり、ホント息子とか弟のようで。仕事が恋人ならいいと思います。モヤモヤすることもないし、頑張りに応えてくれますから」
「それさ〜〜どうなの??仁香、浮気しようかな〜とか考えたことないの?遠恋なわけだしさ、さみしい時間がながいでしょう?心揺らいだこととか、ないわけ?」
浮気‥‥‥
思わず、パソコンを打つ手が止まってしまった。