せーの、で忘れてね

凍えた手




「牧山ぁ。 あのさあ、俺‥今日サイフ忘れちゃって‥どうしよ」



昼。


住吉が申し訳なさそうに近づいてくる。



「どうしよじゃねーだろーがよー! もっと、度胸をつけろ、住吉! 月の裏側まで手を引く覚悟で!」



「‥‥‥は?」



あたしに肩をゆさぶられて、理解に苦しむように頭を横に振っている。



だってさだってさ。


大学ヤメて、画家とケッコンすんの?、伊久さん。


したら、ヨーロッパで暮らすの?



暮らす、ってことは、帰ってこないよね。



いやいや、あたし的にはオイしいシチュエーションだとは思うけどさ


住吉は、違うでしょ。



だって、伊久さんに、ゾッコンだもん、こいつたぶん。



伊久さんだって、そうだったでしょ?


住吉にゾッコンだったじゃんか。



それをさあ。


ケッコンて。



どういうこっちゃね。





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