君のすべてが見たかった

こう言うと、四角い箱の一角で一人で暮らす、彼女のいないモテない独身男だと、勝手にイメージされそうだ。


期待を裏切って悪いのだが、俺には付き合って三年になる彼女がいる。


彼女とは、会社の近くの定食屋で知り合った。


その頃の俺は、なりふり構わず働く企業戦士を気取っていたので、プライベートなどほとんどなく、昼食で立ち寄るその定食屋だけがささやかな心の拠り所だったのだ。


それに対して、彼女は俺以上にキャリアがありそうで、昼食の時間も右手に箸、左手は何かの書類の束をせわしく捲っていた。


そうかと思えば、何も持たずに現れた日には、おかずの一品一品を愛おしそうに眺め、少しずつとても美味そうに食っていく。


俺はそのギャップに興味が沸き、彼女が“のほほんモード”の時に声を掛けた。


すると意外な事に、話してみると色んな共通点が多々あって、俺達は定食屋デートから、お互い仕事の遣り繰りをして、映画やドライブを楽しむようになった。



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