君のすべてが見たかった
ケイはね。第一線で働くビジネスマンを気取ってたらしいけど、彼の食べてる“焼き魚定食”らしき魚の残骸はハッキリ言って悲惨だった。


本人は普段食べない魚を食べた事で満足げにお茶を啜っていたけど、魚好きで魚の頭と骨しか残さずに平らげる私にとっては、ケイの真ん中だけをつついて食べる食べ方がどうしても許せなかったの。


それからはケイの事が気になりだして、焼き魚定食を食べてる姿から目が離せなかった。


そういうのが何回か続いて、たまたま相席した時に


「お魚が可哀想。ちょっと私に貸して下さい。」


驚くケイをよそ目に私は魚の食べ方をレクチャーした。


するとケイは、目からウロコのような尊敬の眼差しを私に向け、少し赤く染めた頬をしてニッコリ微笑むと


「……ありがとう。俺、昔から魚が苦手で、でもキミが教えてくれたように今度から食べてみるよ。」


私は正直、この時初めてケイの顔をマジマジと見たのだった。



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