奥さんに、片想い

イニング2(後半)




 美味しい昼食でだいぶ肩の力が抜け、河野君とは暫くは他愛もない話をすることが出来た。

 レストランを出て、予定通りに彼の車は大橋へと向かう。
 その間、互いにどこで育ったのか、家族は何人か、どのような家族か。学生時代はどう過ごしてきたか、何をしてきたか。ありきたりな会話だったけれど、お互いを知る為の話が出来た。

 河野君は南部地方の出身。
 野球をするために、こちら中部地方の中心地にある商業高校に推薦で入ったとのこと。
 高校生で実家を出て寮住まい。だから今の一人暮らしも苦ではないと言う。

 一年生の時は身体も大きいこと、ある程度中学でも知られた選手だったとのことで、それだけでベンチ入りができ、たまたま甲子園に行ったと河野君。

「でも、それっきりでしたね。高校二年ぐらいから伸びなくなって、どんどん名もなかった同級生や後から来た後輩に追い抜かれて、二軍落ち。それっきりです」

 致し方ないとばかりに緩く微笑む彼だが、そこでかなりの苦汁を舐める体験をしてきたことが窺えた。

 三年生になって野球を辞めることを決意。
 それからもう一つの夢だった理系への進学を目指すが、スタートが遅かったので一浪、いや二浪したと聞いて、思わぬ経歴に千夏はびっくり。





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