奥さんに、片想い
「俺が落合さんを好きだから判ったのかな。だって、主任。課長と一緒にいると本当に幸せそうな顔をしているから。楽しそうで嬉しそうで、コンサル室でも堀端でも見せない一番良い笑顔をしていますよ」
「嘘」
自分では気持ちをセーブするのに必死だっただけに、そんなあからさまに見抜かれるほど、幸せボケした間抜けな顔をしているだなんて思いたくなかったけど……。
「他に気が付いている人間がいるかどうかは俺にもわからないですよ。でも俺、主任を見ているうちに、判ってしまったんです。本当は『そうでなければいいな』と……。俺だって、主任がそうして『課長が好き』と正直に言ってくれたこと、悔しいんですよ。俺から見ても、課長は大人のいい男ですからね」
「私、そんな顔。した覚えない」
でも心の中では、河野君が言ったとおりだと思っているところがある。
会社の中では課長の補佐に邁進する鬼ババお局様の仮面に整えても、課長と一緒に外に出てコンビニで買い物をしたり、ランチを取ったりする時は、幸せな顔をしているだろうと――。
でもそんなの、休憩時間だとか外回りで外出している合間の気を抜いている顔ぐらいに思ってくれるだろうとそう高がくくっていただけなのかも知れない。
それにこの河野君。本当に千夏を真っ直ぐに見つめてくれていたんだと判ってしまう。必死にセーブしている女の気持ちを暴くだなんて、細やかに見つめていた証拠。
「俺、この前言った気持ちと変わりません。課長を好きなままでいいから、俺のことも考えてもらえませんか」
「どうして私なの」
「……正直、俺もわかんないんですよ。たぶん、一目惚れってやつなんでしょうね。主任が仕事をしているキビキビしている姿とか、堀端でゆったりくつろいでいる優しい顔とか見ているうちに……。あ、これって一目惚れじゃないですね。いや、一目で気になったから、一目惚れかな」
またまた、顔が熱くなるようなことを連発していってくれているので千夏も反論しにくくなる。
「それで、いつの間にか落合主任のことばかり考えるようになっていました」
車が信号で止まる。彼が助手席にいる千夏を見つめる。