奥さんに、片想い
イニング3(後半)
よく『愛しているから、貴方のために頑張っている』という愛情を見ることもある。
でも違った。
どれだけ佐川課長という存在を頼りにしていたことか。
自立した大人の女? 自立した愛? 自分のことは全て自分でやっている、愛さえも、一方通行でもひとりだけの愛でも、充分満足納得している。このまま生きていける……?
とんでもない。どこも自立なんかしていなかった。
彼への頑張りをなくしたら、あっという間に崩れ落ちてしまう自分。
そんなの彼への愛じゃない、独りぼっちの弱い自分を奮い立たせるための思いに過ぎなかった。それをまざまざと思い知った。
『もう大丈夫です』
帰された日の翌日だけ休ませてもらった。
次に出勤した時には完全に今までの自分に戻れるようにしたいと、結局は佐川課長の言葉に甘えてしまったのだ。
だが課長はそれでも構わないと許してくれた。その代わり、出勤したら今まで通りの完全たる『落合主任に戻る』ことを千夏自身固く決して。
その通り、千夏はあれから元の『落合主任』に完全復帰していた。
そろそろ梅雨が明けようかと言う頃には、千夏もいつも通りの『鬼ババ』に戻ることができ、日常を取り戻していた。
堀端でのランチも再開。たまに河野君が堀の向こうを通って手を振ってくれる。
もう千夏のところに駆けては来ないけど。でも、今の千夏は素直に彼に手を振り返している。
そんなちょっと何かがしっくりしなくなった日常。