奥さんに、片想い
また市駅から来る電車が公園駅にやってくる。
同じ車掌の笛の音。
その後直ぐ、車のドアがばたんと閉まる音がした。
土手にあったはずの佐川課長の車がない。通じ合った二人を残し、黙って……。
遠く去っていく電車の音が消えても、千夏はその人の胸に抱きついていた。
その日の夜。千夏は彼の部屋で一晩過ごした。
柔らかい肌に、あの直球のような熱さと激しさとしびれが翌朝残っている身体で目覚める。
本当の夏が始まったと、河野君――いや『孝太郎』の部屋で光を浴びていた。
※ 参照:〔奇跡のバックホーム/ 第78回決勝(1996年) 松山商業VS熊本工業〕